kigyostartupのブログ

読んだことを片っ端から忘れてしまうので、忘れないように、要約を記録することにしました。

THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本

 THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本 (新潮文庫) [ ブレイディ みかこ ]
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英国在住の保育士でライターの著者が日本への帰省の折りに立ち会った様々な労働運動について、英国の労働運動と比較も交えがら、暮らしと政治を結びつけて考えることの重要性や難しさについて説くとともに、保育、貧困、労働といった、左右ではなく上下の分断の震源地において、地域に根差して活動している人々に会い、日本で起きていることを伝えている。

第一章では「列島の労働者たちよ、目覚めよ」と題して、とある労働組合のキャバクラ店の賃金不払いの争議をとおして、過酷な給与体系によって世間の印象とは真逆の低賃金労働に従事している実態と、労働者が労働者を責め叩く構図に、日本の労働運動の未熟さを指摘した上で、他の選択肢に目が向かない視野狭窄を指摘しています。

第二章では、貧困や格差是正の運動団体の存在を取り上げて、ようやくお金のことをストレートに語る政治運動が、日本にも出てきたことを歓迎しつつ、SDGsや反原発、安保や改憲に目を反らされていると指摘したうえで、英国では緊縮財政による雇用の悪化が移民排斥やEU離脱をもたらしたと分析したり、移民の多くが移動できるだけの資金と欧米で働ける語学力もある自国では恵まれていた層に属していた可能性に言及して 、世界は右と左ではなく、上と下に分断されているとしています。

第三章では、東京の保育現場をいくつか巡りながら、日本と英国の保育・幼児教育の違いを解説しつつ、両国制度のそれぞれの得失を明らかにし、待機児童問題が箱だけ作って解決するものではなく、一方で競争がないがために劣悪なままという皮肉にも触れた後、労働問題が保育と直結していることを指摘し、民間投資に期待することの危うさを懸念した上で、英国でも規制緩和によって待機児童問題が生じる可能性を予想します。

第四章では、安倍政権反対はのデモを見に行き、整然とするようにリーダーに指導されて、みんなで一斉に同じコールを繰り返している様子と、英国のデモの自由気ままさとの対照や、デモにまったく関心のない街の賑わいに、多様性と画一性や自由と束縛が逆説的な逆転に困惑した後、物理的な核を持たず知らぬ間に集まって、知らぬ間に消えていくだけで雲のような昨今の社会運動の対極にある、地域に根差し地道に世の中を変えてきた山野のNPOを訪ねて、弱者支援ではなく当事者による当事者のための活動であることと、事業化することが長続きの秘訣であると気づかされます。

第五章では、川崎と横浜のドヤ街を訪れ、ボランティア向けのセミナーで受講者が投げかけた人権とは何かという問いをきっかけに、英国の人権教育が貧困から発しているのに対して、日本では人権問題と貧困を関連付けていない事実に驚愕した後、社会運動に崇高さのみを追い求めて、経済を切り離す愚を憂い、ただ人間であることに尊厳のある英国と異なり、支払い能力のなさが人間の尊厳を奪うのが日本であること指摘し、左右の思想に関係なく人民の権利のために固守するという大義に依ったらどうか、と提案している。

エピローグでは、仲間の制止をふりきって、貧困とは縁のなさそうな世田谷の自主保育様子を見に行くと、徹底した放任にハラハラした後、子供たちに大人気の浮浪者との交流に衝撃を受けます。